クータの有効性について考える

◆はじめに
 本の損傷で多いのは、表紙の開閉時に稼働部となるジョイント付近や背表紙である。そのため修復の際には、同じような損傷を予防するためにクータという本の背幅に合わせて作った筒状の紙をしばしば背に貼付する。クータの機能や有効性などについては、すでに岡本幸治氏(アトリエ・ド・クレ)が発表している*1が、実際に弊社でも数種類サンプルを作ってクータの有効性について比較してみた。

◆背の構造と損傷
 洋装本の背の構造はフレキシブルバック(柔軟背)、タイトバック(硬背)、ホローバック(腔背)の3つに分類される。

(1)フレキシブルバック
 背表紙と中身の背が接着しており、開閉時には背表紙と中身の背が一緒に動く(同じ動きをする)。そのため、背表紙(特に金文字・装飾)が傷みやすい。

(2)タイトバック
 本の背に芯紙を重ねて貼り合わせるなどして背の柔軟性をなくし、背を固定する(変形しない)。背表紙と中身の背は接着している。本の開閉時に背が変形せず開きが悪いため、無理やりノド元まで開けようとすると背表紙を傷める。

(3)ホローバック
 背表紙と中身の背が接着していないため、開閉時には別個に動いて両者間に隙間が生じる。その隙間に貼られるのがクータであるが、ホローバックの製本すべてに使われているわけではなく、背表紙と本の背が離れているだけの製本もある。

本の損傷は、背の構造だけでなく表紙と中身の接続方法にも大きく影響される。

(1)綴じつけ製本タイトバック、フレキシブルバック
 タイトバックでは表紙の開閉時に背がほとんど動かないために、ジョイント部に過度の負荷がかかる。そのためジョイント部が損傷し、表紙の分離にいたる場合がある。フレキシブルバックでは表紙の開閉時に多少背は動くが、やはりジョイント部に負荷が集中する。最初は柔軟であっても、表装材である革などが硬化して柔軟性がなくなることも、ジョイント部への負荷、背表紙の損傷の一因であろう。

(2)綴じつけ製本ホローバック
 ホローバックは、開閉時に本の背と背表紙が別々に動くために負荷が分散される。しかし、背が鋭角的に曲がることで綴じ部分に負荷がかかり、損傷する場合がある。またやはり背表紙革が硬化すると、ジョイント部や背表紙が損傷につながる恐れがある。

(3)くるみ製本ホローバック
 くるみ製本ホローバックはジョイント部分に溝があり、開閉時に本の背と背表紙が離れるので開きが良いが、ジョイント部が弱く使用が重なれば損傷にいたることも少なくない。また綴じつけ製本ホローバックと同様に背が鋭角的に曲がることで綴じ部分が損傷する場合がある。

 以上の通り、本の損傷は背の構造や接続方法などにより構造的問題から生じることが多いため、その問題を軽減する方法の1つがホローバック製本へのクータの使用である。クータの使用により背が鋭角的に曲がることを防ぎ、かつ柔軟に背が動くことにより、綴じ・ジョイント部への負荷が分散されると考えられる。

◆実験
 今回の比較実験では、以下のサンプルを作成し(1)クータの有無、(2)幅の違い、(3)素材の違いを観察する。
A.綴じつけ製本タイトバック(クータなし):背表紙には厚手の紙を2枚貼り合わせている

B.綴じつけ製本ホローバック(クータあり):背表紙には厚手の紙を2枚貼り合わせている

C.くるみ製本(背幅同寸クータ・AFプロテクト*2順目):AFプロテクト(洋紙)でクータを背幅と同寸で作成

D.くるみ製本(幅広クータ・AFプロテクト順目):AFプロテクトでクータを背幅より5㎜大きく作成

E.くるみ製本(幅広クータ・RK42*3順目):厚手の和紙でクータを背幅より5㎜大きく作成

(1)クータの有無(AクータなしとBクータあり)
 Aのタイトバックは表紙を押さえていないと閉じてしまい、表紙を押さえて開いた状態を見てみても本文が立ち上がってしまっている。古い本では本文紙が逆目で紙が縦に折り曲げにくい本(特に小さい本)がしばしば見られ、このような本はなおさら開きが悪い。Bのホローバックは、多少本文が立ち上がってしまっているが、表紙を押さえていなくても開いた状態を保つことができる。

(2)幅の違い(C背幅同寸クータとD幅広クータ)
 開きはDの幅広クータの方が良い。開いてみるとどちらのクータもかなり背がしっかりした(支えられている)感じである。

(3)素材の違い(D洋紙とE和紙)
 Eの和紙の方が背の動きが柔らかく、開きも良くノドまでしっかりと開くことができる。一方でEはクータを使用した製本の中では一番背が曲がっている。Eと比べるとDの背の動きは柔軟というより硬いかもしれない。今回選択した紙より薄い/柔らかい紙も試してみたい。

◆まとめ
 A-Eを比較してみると、クータの使用による開きの良さは写真からも確認できるが、実際に手に取って開いてみると幅・素材による背の柔軟性の違いなども実感することができた。すでに弊社でもタイトバック綴じつけ本などの修復を行うときは、修復後に同じ原因で再び破損しないよう、依頼者との協議の上、ホローバック・クータ使用という構造の変更を行っている。変更の際も、必ず原形の写真・記録は取っておいている。クータの採用が有効であることは再確認でき、さらに幅や素材でもかなり本の開き具合が異なることが分かった。クータが有効に働き、負荷がより軽減・分散されるように、本に応じて幅や素材(洋紙・和紙の違い、厚みの違いなど)を選択することができるであろう。

*1 岡本幸治・浅沼真寿美 「クータ(袋背貼り)の保存製本と修復への応用についての一考察」文化財保存修復学会第28回大会要旨集P.94-95、2006年
*2 株式会社TTトレーディング AFプロテクト90g/ m²
*3 紙舗直 RK42 60g/ m²