川瀬一馬『日本における書籍蒐蔵の歴史』より
「…原装をよく保存して伝わっているものと、後世に改装されてしまっているものと、値段が同じというわけはないと考えたことです。いまさら説明を要しませんが、その両者は文化史的意義が全く違います。原装本は、それが製作された時代の文化現象を、如実にそのまま後世の私どもに認識させます。改装されていれば、その書物は半ば以上文化史的意義を喪失しております。」(P147)
「各時代の古文物がもとの姿をよく留めて残存しておれば、それを製作した当時の人々の生活・思想を如実に感得することができます。その時代の人々に生きて出会するわけになりますから、歴史研究の上からは特に大切であります。」(P176)
というほぼ同内容の記述が見られます。
修復作業を行っていると、寸分の狂いもない完璧な製本ばかりに出会うのではなく、コスト等を優先した適当だなと思えるような製本にも数多く出会います。そのような本であっても適切で過不足のない修復・補強を行うことで原装を護りつつ、閲覧・展示に供することができる処置を行うことは可能です。(アーカイバル仕様の素材を使用して復元することも可能です。)
原装を留めておくことが、幸か不幸か壊れている隙間から構造がどうなっているのかを覗き込むような製本が気になって仕方がない我々にとってもどれだけありがたいことか。