糸のS撚りとZ撚り
糸は綿、麻、羊毛等の繊維の方向を揃えて細くし、撚りをかけることによって作られます。「撚り」を行うことによって繊維間の摩擦が増して糸が強くなり、「撚り」の方向によってS撚り(時計回り)とZ撚り(反時計回り)の2種類があります。一方向だけに撚られた糸を単糸、単糸を2本撚り合わせた糸を双糸(諸糸)と呼び、双糸の撚りの方向(上撚り)は、単糸の撚り方向(下撚り)とは逆方向に撚るのが通常です。一般的な裁縫に使用する手縫い糸はS撚り、ミシン糸はZ撚りになっているようです。
弊社では、洋装本の修復作業を行った際に「これは興味深い!」と思った書籍に対して各部の構造、材料、形状、技法など約70項目に及ぶ詳細な製本調査を行っています。その中から糸の撚りについて確認することのできた15世紀から19世紀までのオリジナルが残っている書籍33冊(15世紀:1冊、16世紀:11冊、17世紀:4冊、18世紀:9冊、19世紀:7冊)について見返してみると、S撚りが32冊、Z撚りが1冊という結果でした。
ここまでの大差がつくとなると、たった1冊のZ撚りが気になるところですが、これは1681年にMadridで刊行されたリンプ装の書籍でした。SかZで見間違えることはないので、Z撚り単糸の状態の糸を使用したのか、それともS+Zの双糸を使用したものなのか?どのような理由なのかは残念ながらよく分かりません。
引き続き詳細な製本調査を行いながらサンプル数を増やしていきたいと思います。
【参考】
滋賀県東北部工業技術センター(https://www.hik.shiga-irc.go.jp/info/instructions/textile_iroha/textile-1/)
DUKE UNIVERSITY LIBRARIESブログ「Preservation Underground」(https://blogs.library.duke.edu/preservation/page/15/?cat=-1)