保存容器によって最小単位の理想的な収蔵環境をつくることで、保存管理を行いやすくすることができます。
1.保存容器の利点
・外気の温湿度変化が緩和される
・光の影響から資料を護る
・埃や虫等の侵入を防ぐ
・持ち運びに際して直接触れずに済む
2.保存容器の欠点
・中身が見えない
・収納後に閲覧以外で開けることがあるのか?(=定期的な点検を行わなくなる)
・中で異常が発生していても気がつかない
3.「Phased Conservation」という考え方の中での保存容器
Phased Conservationとは、資料全体/資料群の保存を念頭に置いて生まれた考え方で、保存容器収納や小さな破損修復等の応急修復から解体を含む本格的な修復へと文字通り段階的に行っていくという考え方です。1972年に米国議会図書館で実践されてから日本へも導入されましたが、日本では「現実には、修復対象をまず優先したいが、費用面から緊急的に保存容器を採用するという考え方が根底にあり、行為は同じであっても発想に違いがみられる。」(『紙と本の保存科学』青木睦)という本来の考え方とは大きく乖離した現状となっています。「後にも先にも保存容器に入れてさえおけば良い」という極端な話を講習/講演会でするような業者も存在します。これが日本の悲しむべき現状です。
このような現状の日本では、「短期間(15~20年)の保存においては十分な役割りを果たす」(IFLA Principles for the Care and Handling of Library Material)とされている保存容器に収納してしまえば、「以後数十年の保存が約束され」、また「全てが解決するように思われている」部分が少なからずあります。さらに、「定期的な点検が行われなくなる(行わなくても良いと思ってしまう)」といった危険性もあります。その危険性については、文部科学省が2008年に作成した「カビ対策マニュアル」で指摘しています。そこでは「収納箱の利用は、資料を汚染物質やホコリから守るとともに、資料に直接触る回数を減らす効果があり、推奨できる。ただし、箱に入れてしまうと人の目がとどきにくくなるので、カビ発生などの異常が起きても発見されにくいため、定期的な点検を心がけたい。」とあります。
さらに、『東北大学附属図書館調査研究室年報 第7号(2020年3月)』「漱石文庫等洋貴重図書修復事業報告」(小川知幸、菊地良直)においても、「かりに、対策をせずに保存箱に収めたりすれば、資料のコンディションが確認しづらくなるのと同時に、対策済みと誤認される危険もある。貴重図書は職員出納であり、適切に排架しさえすれば図書は良好に保存されるはずなのだ。」と論じています。
保存容器への収納前には、状態調査と必要最低限の処置(ドライクリーニングや応急的な修復等)を行い、収納後にも定期的な点検を行っていくこと、つまり資料に対する目配り・気配りを絶やさない(=容器や設備に頼り過ぎない)ことこそが、結果的にトラブルの早期発見へとつながります。こうすることで被害を未然に防ぎ、より良い状態で収蔵資料を保存・活用することができると考えます。