エチオピア(コプト)製本②
エチオピア製本について
基本的にはコプトの影響を受けた(伝わった)形をずっと維持。キリスト教がエチオピアに4世紀に到達。コプトやビザンチンとの交流が続く数世紀は維持。しかし、アラブによるエジプト征服で、600~700年の間、他のキリスト教世界から孤立していた。16世紀になってポルトガル人やイタリア人宣教師が来て、古代の古い本を持ち帰った。それらはパーチメントに書かれた祈祷書、福音書、賛美歌、殉教者の生涯、聖母マリアの奇跡などの本で、時には装飾されているものもあったり、ほとんど今日まで変わっていないシンプルな冊子体もあったりした。それらはリンクステッチで、綴じ糸はボードに固定されている。表紙は革で覆われていたり、いなかったりする。シンプルな構造はコプト装に似ている。
多くのエチオピアの本がヨーロッパにもたらされ、英国図書館、パリの国立図書館、バチカンなどにある。大体は16世紀から19世紀のもの。
(1)綴じと接続
①リンクステッチ : ペアの綴じ(綴じ穴2点が1組として綴じる)が基本で、小さいもの(80-120mm)だと1組、それより大きいと2-3組。中には7組あるものもある。まず、ボードの穴に糸を通して、折丁を綴じ始める。1組につき針は2本。それぞれの糸(2本)で綴じる。最後まで綴じたら、最初と同じようにボードに糸を通して、最後の折丁に戻って、結ぶ。
②綴じと接続 : 上記の接続方法はエチオピアのコデックスで特徴的な構造。最近の研究によると、事情はもっと複雑で、まず調査した中では綴じと接続方法は3種類あるなど、様々なタイプがあるようである。
③糸 : リネンかコットン、ガット(羊・山羊・牛の腸線)。
Szirmaiの研究で、2-複数縒りの糸(最終的にはZ縒り)がとても堅く、もろく、折り曲げる箇所で壊れやすい糸の例を発見している。19世紀の装丁の糸の破片を顕微鏡で見ると、黄色いかなり固い透明な物質でコーティングされているようであった。エーテルアルコール系溶剤(脂肪やワックスに強力な溶剤)で糸の破片を抽出すると、基本的な繊維に簡単に別れた。それは確定はしていないが、植物繊維のようであった。この実験はさらなる確認を要するが、ガットだと思われていた糸は、ワックスやワニスを浸透させた織物(の原料)かもしれない。
(2)ボードと表装
①ボード : 大抵木で、粗い仕事の痕跡(刻み目)が残っており、ほとんど正確な四角ではなく、斜めに面取りされていない。大きい本は2つの木片からできていることがしばしば見られ、植物繊維で接続されている。
シーダー材などが使用される。
大抵ボードはチリなし。もし裁断をするとなると、接続後にボードと一緒に行わなくてはならないが、本文の小口にはその痕跡が報告されていない。
②表装 : 多くのシンプルなエチオピア装は表装されていない。時には背から表紙の1/3まで表装されたり、より豪華な本は総革装されることがある。山羊か羊革で、赤茶色で、多くのコプト装の特徴的なものと同じである。
折り返しは幅広く、角の処理は留め継ぎで、糊付けか革で編んで留められる。ボードの内側は時々カラフルに装飾された布が象嵌されている。
③装飾 : 空線や、空押しが中央の十字架の周りに配される。
(3)花布
概して、表装なしだと花布はない。革装されていると大抵花布があるが、表装されてから編まれている。6-10mm幅の紐を編んだもので、背より40-60mm長く、本文とボードの間にぶら下がっている。糸で折丁と表装(カバー)を通しながら、花布を縫いつけるようにして取り付けられる。それに使われる糸は綴じ糸などより細い。また、色糸で編んだ花布の存在を示す痕跡も見つかっている。
(4)その他の特徴
①多くのエチオピア装が、織物の包みやストラップのついた持ち歩きようの革のケースに入れられて、状態良く残っている。
②開きが良く、特に背に何も表装してなければ明らかだが、革で背貼りがなされていても開きが良い。
③欠点は、背が平らなので、凹状になりやすく、前小口が出っ張り、本の形が崩れる。また、ボードと中身の接続が綴じ糸なので、ジョイント部が弱く、折丁のところは痛んでなくても、ジョイント部はしばしば壊れている。
J.A.Szirmai著『The Archaeology of Medieval Bookbinding』
Jane Greenfield著『ABC of Bookbinding』 からの要訳です。