【漱石文庫とは】
夏目漱石(1867~1916)の旧蔵書、日記・ノート・試験問題・原稿等の自筆資料、その他漱石関係資料等から構成されている。漱石旧蔵書のほとんどを収め、洋書約1650冊、和漢書約1200冊の図書が文庫の中心であり、洋書の中には漱石が英国留学時に購入した約500冊の図書も含まれている。
(東北大学附属図書館HPより)
【漱石文庫の性格】
各々の書籍は、タイトルだけを見れば限りなく一般書に近いもの(約7割がポケット版や6ペンス本などの廉価本)であり、いわゆる稀覯書でもなければ、芸術的な価値がある訳でもない。しかし、蔵書の約3割に漱石自身が心置きなく書き込みをしており、他にも随所に使用痕が認められることから、漱石によって一回性を付与された唯一無二(unique)の歴史的存在としての性格を帯びている。
処置方針の立案にあたっては、「漱石文庫の資料が秘蔵されるのではなく、なるべく多くの人目に触れること、研究者に適切に利用され、愛好者に観覧されること」・「当該資料の処置にあたっては単純に修復技術の問題だけでなく、人文学的な問題も内包している」
これらのことを踏まえ、東北大学附属図書館内に設置された古典資料等修復保存小委員会が定めた漱石文庫の保存修復処置方針は次のとおりである。
【基本方針】
漱石が生前に用いていた蔵書の状態にまで回復する。
※漱石文庫の書籍の最大の価値は、漱石が旧蔵し、利用したことにある。それゆえ、漱石の死後約30年放置されていた間(大正5(1916)年12月から昭和19年(1944)年2月の東北大学移管まで)に受けた損傷や、その後の経年劣化、不適切な利用や修理などによる損傷を取り除いた先に、本来の姿があると考えられる。
【処置条件】
漱石が蔵書を「ボロボロに」したのならば、そのままであることを積極的に選択し、手を加えずに保存する。しかし、その原因が他にあり、処置しなければ将来的に書籍自体の構造が破壊され、破損・散逸などの恐れが認められる部分については次の約束のもとに処置を行うこととする。
①修復処置はあとで確認できるものとする。
②利用性の確保のためにやむを得ず書籍の構造を変えることはできるが、基本的な外観を変更することはできない。
③修復前の状態に戻せることを前提に処置する。