【所蔵】清水建設株式会社
 1804年の創業以来、200年を超える歴史を持つ清水建設株式会社様がご所蔵されている貴重な社史資料への保存修復処置の記録(一部)です。「温故創新の森 NOVARE」内の「NOVARE Archives(清水建設歴史資料館)」での収蔵・展示に向けたプロジェクトの一環となっています。

事例1)
【タイトル】東京帝国大学大講堂竣功記念写真帳
【資料概要】
 東京帝国大学大講堂(安田講堂)が大正14年(1925)7月に竣工したことを記念して制作された写真帳。本資料は東京大学総合研究博物館、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻(デジタルミュージアム準備室)での所蔵も確認できたため、同所にて製本調査を行わせていただきました。総革(起毛革)垂れ革表紙(yapp binding)。下綴じに釘、結び綴じ。
【損傷/劣化】
 表裏の表紙は中身から外れかけ、背表紙はほぼ欠失。表装革にはレッドロットの他に周縁部分の破損や欠損、脆弱化が見られ、表紙芯紙にも同様の症状が見られる。下綴じの釘に錆が生じ、綴じ紐も脆弱化や摩耗により緩んでいるため、綴じはほぼバラバラな状態となっている。本文紙(写真台紙)は錆の移行の他に染み、軽度の茶変色が生じている。写真には糊枯れによる一部の剥がれ、破損、付着物等が見られる。

【主な保存修復処置】
①綴じの解体(紐、釘の取り外し)、各台紙にノンブルをふる。
②背固め、錆の除去後に全ページのドライクリーニング
③写真に貼られたセロハンテープを除去して再修復を行う。
④台紙の折れ・綴じ穴補強(薄口楮紙、薄美濃紙)、欠損(染中厚楮紙)・破損(薄美濃紙)修復
⑤下綴じを太目の麻糸で行い、和紙で背貼りを施す。
⑥表紙の修復:垂れ部分の芯紙を厚口楮紙で作成し、欠損革をオリジナルと似寄りの起毛革で修復
⑦ヒンジで表紙と中身を再接続し、新規背革(起毛革)の貼り込み。
⑧綴じ直し(染綿糸)

【修復後の状態】

事例2)
【タイトル】Architectural Pieces Collected by J. Tanabe on his America European Tour 1909-1910 vol.I~III
【資料概要】
 清水組で技師・技師長を務めた田辺淳吉が明治42年(1909)8月、渋沢栄一を団長とする渡米実業団に随行し、全米54か所を訪問。その後、単独で米国さらに翌43年10月の帰国まで欧州各国を巡回した際に撮影・収集された建築作品写真が収められた大型アルバム。
 各巻の寸法(mm)と本文紙の枚数は、
 vol.I  565×460×85、37枚 
 vol.II  565×460×75、34枚 
 vol.III  565×460×70、31枚
 角革装とじつけ製本、タイトバック。テープ綴じ。台紙どうしを布でつなぐことで折丁化している。背貼りには反故革が用いられ、「陸軍戸山学校」「徴収簿」「物品出納」等の文字が確認できる。
【損傷/劣化】
 背革は芯紙ごと外れている。表装革には銀面剥離、欠損、破損、脆弱化、摩耗の他にレッドロットも生じ、表紙ボードには欠損や層化が見られる。台紙には波打ち、染み、茶変色、周縁部の布の剥がれ、小さな破損が生じている。

【主な保存修復処置】
①背貼り、背固めを除去し、新規背貼りと和紙ヒンジの取り付け
②クータの取り付け後に分厚い背表紙芯紙を中性紙で化粧張りして再取り付け
③新規背革を革漉き、染色後に貼り込み
④台紙の破損を修復し、周縁布の貼り戻しを行う
⑤元背の貼り戻し
⑥間紙(ピュアガード45)の挿入

【修復後の状態】