学校法人アテネ・フランセ様(1913年設立)より2013年1月の同校100周年に向けた記念事業の一環として、同校が所蔵する色紙の保存修復処置のご依頼をいただきました。この色紙の表面には、同校の創設者アレキサンドル・ジョゼフ・コット氏(東京帝国大学講師)が描いた水墨画、裏面には同氏の言葉が墨書されており、学校アーカイブズともいうべき作品です。
【作品の概要・組成】
[主題]:表面には日本の里山風景を描いたと思われる水墨画、裏面には作者の言葉が墨書されている。
[寸法]:左右辺 272mm 上下辺 241mm
[署名]:表面の左辺下部には「虎洞」(コット?)と署名と落款がある。
[その他]:周縁部には覆輪がある。
[組成]:紙厚2mmのクリーム色した機械漉き紙
【損傷/劣化状態】
画面全体が黄色化し、所々茶変色している部分(左辺)がある。四隅にはセロハンテープの基材とともにテープ痕(残留接着剤)があり、これらの剥離による欠損(表層剥離)のほか残留接着剤に網目状の痕がついている部分もある。右辺には折れとそれに伴う変形、上辺中央部には捲れて折れたまま固着した部分がみられる。覆輪も所々剥離している。本紙の処置前pHは4.5であった。
【処置内容】
①刷毛やスポンジを用いて表面のドライクリーニング
②覆輪を取り外し、本紙を芯紙から剥がした。
③裏面のテープ痕を綿棒にエタノールを染み込ませて除去
④水溶性の付着物(接着剤)に湿りを与えて綿棒でこそぎ取った。
⑤裏面の洗浄(2回、フローティング)
⑥表面テープ痕の除去(サクションテーブル、エタノール→エタノール+アセトン→エタノール+アセトン+リグロイン)
⑦表面の洗浄(サクションテーブル、エタノール:水=1:1を300ml使用)
⑧脱酸(炭酸水素マグネシウム) ※処置後はpH9.5に改善された。
⑨本紙の裏打ち(1回目、薄美濃13g)
⑩芯紙の作成(ピュアマット0.85に美栖紙(ピュアマットのみでは硬すぎるため)を3枚交互に貼り込む)
⑪本紙の裏打ち(2回目、薄美濃13g)
⑫裏面を芯紙に貼り込んで仮張り
⑬裏面の周囲を仕上がり寸法に裁断し、表面へ貼り込んで仮張り
⑭覆輪を付ける(純金箔3号色)
⑮表裏両面が鑑賞できるようにアクリル製額(UVカット機能付)に入れた。
新しい芯紙の作成 本紙と芯紙の貼り合わせ 覆輪の取り付け
【処置前後の状態】
表面(処置前) 表層剥離(処置前) テープ痕(処置前) 表面(処置後) 表層剥離(処置後) テープ痕(処置後)