1.ステープル綴じ製本について
【歴史】
1875年頃ドイツ人のBrehmer兄弟がフィラデルフィアでステープル綴じ機械を最初に開発しました。この機械で最初に製作された冊子は、1876年のフィラデルフィア万博の公式プログラムであると言われています。ライプツィヒに戻った彼らはBaedekerの『Guides』、Brockhausの『Konversations Lexikon』などの有名な出版物の製本を行いました。以後、このような機械による複数折丁のステープル中綴じは旧ソ連において1970年代まで行われていました。
日本では明治10年代後半から南京綴じ風のステープル平綴じが行われ始め、ステープル中綴じは明治20年代後半~30年代にかけて普及し始めたと言われています。
【方法】
折丁の内側から外側に向かってステープルを出し、背に貼ってある丈夫な布(寒冷紗)や布テープに綴じ付ける方法。
【劣化】
ステープルから発生する錆(=酸化現象)による本文紙の損傷は酸素がある限り止めることはできません。紙の酸性劣化と同様、ステープルの鉄イオンは触媒として作用するので、消費されることはなく酸化を促進し続け、錆によって浸食された箇所は最終的に崩れ落ちることとなります。
【対策】
原因となるステープル自体を取り除き、本文紙へと移行してしまった錆も完全に取り除くことが基本です。錆の発生していないステープルであれば、紙の酸化劣化とは全く無関係のため、保管場所の湿度などの環境が安定していれば問題はないと考えられます。
2.修復事例
【所蔵】東北大学附属図書館 狩野文庫
【タイトル】Konversations-Lexikon Bd.3
【刊行年】1893年
【刊行地】ライプツィヒ
【損傷/劣化状態】
背表紙は分離し、表裏の表紙と中身との接続はヒンジ(寒冷紗)のみで保たれている状態。表装クロスには破損や磨耗が、背革には欠損や磨耗、レッドロットなどが生じている。綴じのステープルには錆が生じ、その錆は本文紙にも移行している。さらに、綴じの緩み、ノド割れなども起きている。天地の花布(貼り花布)の状態は良好。見返しノド元は切断され、軽度の変色や破損なども見られる。
【保存修復処置方針】
①ステープルを取り外して綴じを解体し、本文紙に移行した錆をメスなどを用いて完全に除去する。
②全折丁の折り目を和紙で補強した後、綴じ直しを行う。
③新規背革を準備して装丁をやり直し、レッドロットに対する処置を行ったオリジナルの背革を貼り戻す。
【保存修復処置工程】
①表紙や小口、見返しノド元、本文紙を柔らかい刷毛、ワイピングクロスでドライクリーニング
②ジョイント部分を切断して表紙と中身を分離し、取り外した花布はぬるま湯で洗浄
③背貼りや背固めの膠を除去
④ステープルを取り外して綴じの解体を行い、本文紙に移行した錆を完全に除去
⑤全折丁の折り目を和紙(再製本後の全体の厚みがオリジナルと変わらないような和紙を選択)で補強し、綴じ直し(かがり綴じ、抜き綴じ)を行う
⑥背固め、丸み出し、バッキング
⑦背貼り後、洗浄した花布を貼り戻し、ヒンジ(裏打ち寒冷紗)を背に貼り込む
⑧クータの貼付後、背表紙芯紙(中性厚紙)を貼り込む
⑨新規背革の革漉き染色を行い、背に貼り込む
⑩ノド元に足を付けた見返し遊び紙を貼り戻す
⑪レッドロットに対する処置を行った元背を貼り戻す
【処置後の状態】