【タイトル】新約聖書
【刊行年】明治32年
【垂れ革表紙とは】
垂れ革表紙(Yapp binding)とは、表紙の3方のチリを通常より大きく伸ばして、小口を覆うように少し内側に曲げ、中身の3方を保護するようにした製本様式のことである。こば折れ製本、折れ製本とも呼ばれることがあるようである。この様式は、19世紀中ごろに書籍商のWilliam Yappにより携帯版聖書用に考案されたと言われる。
特徴を挙げると、
(1)表紙は薄表紙(芯材が薄い)で、チリ(垂れ部分)には薄い芯材が入っている場合と入っていない場合がある。表装材は革が多い。
(2)垂れ部分は中身の厚さの半分からそれより少し大きいくらいで、天・前小口・地の部分は各々つながっている(続いている・連続している)。ファスナーが付いていることもある。
(3)表紙・本文紙の角が丸い。
(4)見返紙には大概顔料系着色紙が使用され、黒が多い。
(5)小口は金、赤、パラがけなどである。
半世紀ほど前までは詩集の本などにもこの様式が行われていることがあったが、現在ではもっぱら宗教関連の本、特に携帯用小型本に行われる。「circuit edges」と呼ばれるものがあるが、Yapp bindingの3方の垂れ部分が各々続いているのに対して、circuit edgesは3方の垂れ部分が続いていない。本の寸法ぎりぎりに作られた箱(スリップケースなど)が付属していることが多く、箱に入れるときに垂れ部分がきつく折り曲げられるために、その部分が弱くなり、ついには垂れ革部分が切れてしまうことがしばしば見られる。
【処置前の状態】
主に損傷があるのは表紙である。表紙の表装材の革は非常に薄く処理されていて、もともと堅牢性に欠け、耐久性が低い状態であった。そのため、経年・使用ののちに、折り曲げられた垂れ革の折れの部分は擦り切れ・脆弱化し、切れかかっていたり、切れて垂れ部分が欠失してしまったりしている。また、背表紙の天の方にも大きく欠損がある。革はその他摩耗や硬化などが見られる。本文紙には軽度の破損、欠損、染み、変色などの損傷が起きている。
【処置方針】
今回対象となる資料は所蔵者のおじいさまの形見であり、「元の表紙などをなるべく生かして修復を」とのご希望でした。そこで、弊社が常に目指している「残せるものは残してできる限り原形を保ちつつ、脆弱部分を補強・補填する」方法で修復することになりました。
(1)背はジョイント部の損傷や大きな欠損があるため、新規に準備(染色・革漉き)した革を貼り込み、オリジナルの革を貼り戻す。※革を薄くすると強度が下がるため、オリジナルほど薄くしない。
(2)垂れ革部分は、薄く柔軟性を保持しつつ強度が保たれる和紙を使用して、切れかけている部分の補強や、欠失してしまった部分の復元・補填を行う。
(3)本文紙の損傷/劣化に対する修復
(4)保存容器の作成
垂れ革をきっちりと折らなくても収納できるように大きめに保存箱を作成し、自然に垂れ革が曲がった状態でクッション材を入れて保存容器に収納する。
【主な処置内容】
①革の補強と柔軟性を与えるためにHPC、保革油の塗布
②背を分離し、背固めの膠の除去
③本文紙の欠損・破れを和紙で修理
④表紙接続補強用ヒンジ、クータの順に背に貼付
⑤新規背表紙用仔牛革を染色・革漉きして背に貼り込む
⑥垂れ革部分の破損・欠損部分は和紙をアクリル絵具で染色して修理
⑦表紙の和紙での修理箇所をアクリル絵具で補彩し、SC6000で補強した。
【処置後の状態】
【参考文献、ウェブサイト】
・『Bookbinding & Conservation by Hand: A Working Guide』Laura S. Young
・『ABC Of BOOKBINDING. A Unique Glossary with Over 700 Illustrations for Collectors and Libarians』Jane Greenfield
・http://cool.conservation-us.org/don/dt/dt3832.html
・http://cool.conservation-us.org/don/dt/dt0703.html
・ http://everything2.com/title/Yapp+binding
・http://bindings.lib.ua.edu/glossary3.html
・http://www.bibledesignblog.com/2012/05/semi-yapp.html?cid=6a00e3981f1e39883301676694d204970b
・http://luna.folger.edu/luna/servlet/detail/BINDINGS~1~1~7764~100466:Front-cover,-fore-edge,-and-bottom-
・http://www.ajup-net.com/web_ajup/060/60cover.shtml
・http://homepage2.nifty.com/seide/michio/3_2.htm
・http://mdh2.com/print/print26.html
・http://sei-hon.jp/glossary/words/%90%82%82%EA%8Av%95%5C%8E%86.html
・http://d.hatena.ne.jp/shinju-oonuki/20110801
・http://www.honnuova.com/mt/2010/06/post-367.html