【所蔵】東京国立博物館

【資料の概要】
 東京国立博物館の前身である東京帝室博物館の所蔵作品について記した台帳。大正12年(1923)の関東大震災で倒壊した本館を建て直す際、東京帝室博物館は所蔵作品の区分整理も行った。新本館の完成(昭和13年)に合わせて新しい区分で書き直された台帳である。(東京国立博物館平常展 文化財を守る-保存と修理- 展示キャプションより)

【製本の特徴】
 資料総数212冊のすべてが角革装となっており、綴じ方は麻緒による平綴じ(いわゆる「ぶっこ抜き」)が136冊、麻紐を支持体とした「本かがり」が76冊となっている。麻緒または麻紐と寒冷紗を表紙ボード裏に貼り込むことで、表紙と中身(本文ブロック)の接続がなされ、また見返しノド元には補強のためにノド布が貼られている。
 表装材料として使用されている革はほとんどが黒く染色されたクロム鞣し仔牛革で、平に使用されているクロスは当時教科書用として広く採用され始めていた国産製本用クロスと思われる。本文紙に関して平綴じの本はすべてペラ丁で構成され、本かがり綴じの本は折丁構成となっている。
 本文紙および表紙芯紙の繊維組成分析を行ったところ、本文紙は「木材パルプ」、表紙芯紙は「わら繊維」という結果であった。

【損傷/劣化状態】
 洋装本の損傷/劣化は、使用されている材料自体の劣化によるものというよりも、主に製本の構造的な損傷/劣化に対して使用されている材料が耐え切れずに損傷/劣化が広く顕在化してくるものと言われている。
 当該資料についても前述のような傾向が見られ、損傷/劣化を受けている資料の大部分が構造的に開きの悪い平綴じの本となっている。平綴じ本の開きが悪いのは、ノド元の約10mmの位置で麻緒が通されているためで、利用による開閉、特に開く際に構造的な限界を超えた角度で開くことによって、麻緒の切断から本文紙の破損へとつながっていく。また、開閉時の負荷が構造的に本文ブロックの背に対して均等に分散されることがなく、その負荷がジョイント付近に集中した結果、ジョイント部分の革が切断され、背表紙だけが外れているものが多く見られる。

【処置方針】
①個々の資料の利用性を回復し、かつその機能を長期的に確保するためにそれぞれに適切な処置を過不足なく行う。
②素材・構造等は処置後の保存性を損なう場合を除いて、原状を可能な限り尊重し元素材を利用する。構造についても、原則的には忠実に再現を行うが、原形が利用性・保存性を損ねる場合には協議の上で変更も考慮する。

具体的な事例
【処置前の状態】

 麻緒による平綴じ(ぶっこ抜き)であるため前述のような理由から麻緒が切断され、それに伴い本文紙のノド元には破損が見られ、綴じがバラバラな状態となっている。さらに、ジョイント部分に負荷が集中した結果、ジョイント部分の革が切断されて背表紙が外れている。

【保存修復処置】
①刷毛やクロスでドライクリーニングを行った後、背貼り・背固め膠を除去した。
②切断した麻緒を取り除き、綴じを解体した。
③新しい麻紐(リネンコード)で綴じ直した。
④背固め用背貼りを貼付後、オリジナルの花布を洗浄後に貼り戻した。
⑤接続補強用ヒンジ(裏打ち寒冷紗)とクータを背に取り付け、表紙と中身の再接続を行った。
⑥背に芯紙(中性厚紙)を貼り込み、その上に革で作成した疑似背バンドを取り付けた。
⑦新しい背表紙用の仔牛革をアルコール染料で染色し、革漉きを行ってから背に貼り込んだ。
⑧新調した背表紙のタイトルを背に貼り込んだ。

【処置後の状態】